血管攣縮を制御する時間・空間的な機構を解明

〜生体内のROCK活性の可視化に成功し、血管攣縮時の活性変化をリアルタイムに観察〜



概要

図

図1: 交感神経を介したROCK活性化による血管攣縮

血管の収縮が異常に持続する「血管攣縮」を制御する時間・空間的な機構を解明するため、二光子顕微鏡を用いてマウス皮下細動脈において血管攣縮を観察する系を確立しました。また、カルシウム濃度をモニターできるマウスと、ROCK活性をモニターできるマウスを作成し、血管攣縮時のカルシウム応答及びROCK活性動態の解析を可能にしました。その結果、焼灼応答性のカルシウムにより引き起こされた血管収縮は、焼灼箇所ではカルシウム、焼灼部位の上流下流血管では、交感神経を介したROCK活性化により血管収縮が持続されるという血管攣縮の制御機構が解明されました。本研究成果は科学雑誌「The American Journal of Pathology」に掲載されました (図1)。


研究の背景

くも膜下出血時の血管攣縮は虚血や梗塞を引き起こします。血管平滑筋収縮におけるカルシウム動態はよく知られている一方、ROCK活性による時間・空間的な制御機構については未解明のままでした。


研究の内容と成果

図

図2A: ROCK活性を検出するFRETプローブ模式図。
図2B: 焼灼により惹起された血管攣縮時のROCK活性変化。

血管攣縮時のROCK活性動態をライブイメージングするため、まずマウス皮下細動脈の極小領域をレーザーで焼灼して血管攣縮を引き起こす系を確立しました(図2A)。この系において、焼灼後すぐに全体で上昇したカルシウム濃度は焼灼箇所では長く持続し、上流や下流ではすぐに低下しました。その一方、ROCK活性動態は焼灼後10秒以内に上昇し、焼灼箇所の上流及び下流の血管平滑筋細胞において上昇したROCK活性の持続が認められました(図2B)。これらの結果より、血管攣縮はカルシウムとROCK活性によって時間的に制御されていることが示されました。また、ROCK活性阻害剤を投与したマウスでは焼灼箇所以外で収縮の持続時間が短縮され、ROCK活性による空間的な制御が示唆されました。さらに、交感神経節阻害剤を投与したマウスでは、焼灼後のROCK活性の上昇及び収縮の持続が認められなかったことから、血管攣縮時のROCK活性化は交感神経による支配を受けることが示されました。


研究の意義

本研究では、焼灼応答性のカルシウムにより血管収縮が引き起こされ、その後焼灼箇所ではカルシウム、上流下流では交感神経を介したROCK活性化により血管収縮が維持されるという血管攣縮の制御機構を解明しました。
また本研究で作成した生体内でROCK活性動態の観察を可能にするマウスは、これまでリアルタイムでできなかった発生時のROCK活性動態の観測などを可能にすることで新たな生命現象の発見に寄与することが期待されます。


今後の展開

本研究では皮下細動脈を用いて血管攣縮の制御機構を調べましたが、今後より病態に近い系を構築し、脳血管においても同様の機構がみられるかを検証していきたいと考えています。

研究プロジェクトについて

日本学術振興会科学研究費助成事業、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(CREST)の支援を受け実施しました。


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