エキソサイトーシス過程でのTC10タンパク質の活性化イメージング


参考文献
K. Kawase, T. Nakamura, A. Takaya, K. Aoki, K. Namikawa, H. Kiyama, S. Inagaki, H. Takemoto, A. S. Saltiel, and M Matsuda. GTP hydrolysis by the Rho-family GTPase TC10 promotes exocytic vesicle fusion. Dev. Cell. 11: 411-421, 2006.

小胞輸送とは、膜小胞が細胞膜および細胞内のオルガネラの間を行き来することにより、物質の輸送とコミュニケーションを行うプロセスである。小胞輸送が駆動する3つの経路−分泌(エキソサイトーシス)、リソソーム(液胞)経路、およびエンドサイトーシス経路−は、ダイナミックな膜の流れを実現し、生理的に重要なさまざまな役割を担っている。

最近、われわれはエキソサイトーシスに関与するTC10タンパク質のFRETプローブ(Raichu-TC10)を作製して、その実験結果に基づき、TC10の小胞膜融合への関与について新しいモデルを提唱した。TC10はRhoファミリーのメンバーのひとつで、核周辺の内膜系、エキソサイトーシスされる小胞、細胞膜に存在する。TC10については、脂肪細胞をインシュリンで刺激した時のグルコーストランスポーターGLUT4の細胞膜への移行に関与することがよく知られているが、最近になってCFTR、AMPAレセプター、frizzledなどの輸送への関与も報告されている。

図1のRaichu-TC10でのFRETイメージングのデータが示すように、TC10の活性は小胞で最も高く、核周辺領域はやや低く、細胞膜が最も低い。つまり、TC10は核周辺の内膜系から小胞に移行するときにGTPが結合した活性型になり、細胞膜に移行する時にGTPが加水分解されて不活性型になる。


図1 HeLa細胞におけるTC10の活性の分布

Raichu-TC10を発現させたHeLa細胞のYFP画像とFRETレシオ画像。FRET画像の色は、赤は活性の高い場所を青は活性の低い場所を示している。スケールバーは5μm。


TC10上のGTPの加水分解の正確なタイミングを調べるために、全反射蛍光法を用いて膜融合の過程における小胞上のTC10のFRETイメージングを行った(図2)。その結果、膜融合の0.2秒前に小胞上のGTP-TC10が加水分解を受け、直後に細胞膜との融合が起きることが明らかになった。

図2 膜融合直前のTC10上のGTPの加水分解

Raichu-TC10を乗せた小胞が膜へ融合する前後のYFP画像とFRETレシオ画像。FRET画像の色は、赤は活性の高い場所を青は活性の低い場所を示している。


加水分解を受けない恒常活性化型のTC10を細胞に発現させると、EGF刺激によるエキソサイトーシスや脱分極刺激によるニューロペプチドYの分泌が強く阻害される。このことから、各種の刺激により細胞膜近傍でGTPが加水分解されたTC10が、膜融合に関わるエフェクターをリリースし、それが引き金となって小胞が細胞膜に融合するというメカニズムが考えられる(図3)。また優勢劣性変異体やRNA干渉法を用いた解析により、EGF刺激によるTC10上のGTPの加水分解は、EGF刺激→Rac1活性化→活性酸素種の産生→p190RhoGAP-Aの活性化→TC10上のGTPの加水分解という経路で起きることが明らかになった。

図3 TC10上のGTPの加水分解が膜融合を促進するメカニズム

TC10は核周辺の内膜系から小胞に移行するときにGTPが結合した活性型になり、Exo70やPISTなどのエフェクターと結合する。細胞膜に接近したTC10を含む小胞は、Exo70を含むエキソシスト複合体により細胞膜に繋ぎとめられる。その状態で刺激が入ると、p190RhoGAP-AがTC10上のGTPを加水分解し、TC10からExo70が乖離してエキソシスト複合体の分解が起きる。エキソシスト複合体の分解がSNARE複合体の会合を引き起こし、小胞が細胞膜に融合する。


以上の成果は、TC10が細胞内の「いつ・どこで」活性型になり、また加水分解されたかを可視化できるFRETイメージングにより初めて得られたものであり、細胞をすり潰してからデータを取得する生化学的な手法の限界を乗り越えたものということができる。


Raichuプローブに関して → PHOGEMONマニュアル



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