平成17年度 がん特定領域研究 若手共同研究報告書

 

研究課題名:p53の変異による機能獲得のメカニズムの解明

 

若手研究代表者(申請者)        : 矢吹 仁人

所属研究機関                : 東北大学加齢医学研究所

共同研究者                                    : 渡辺 亮

              所属研究機関                  : 東京大学先端科学技術研究センター

 

 

研究成果概要

 

癌抑制遺伝子であるp53の欠失や変異による機能喪失は発癌を促す。同時に、p53の変異体は野生型とは異なる転写制御を行うことが示唆されているが、変異体による転写制御メカニズムについてはほとんど知られていない。本研究では、高頻度に癌で検出されるp53変異体175Hならびに248Wがもたらす機能獲得のメカニズムを、発現制御の変化を捉えることによって明らかにすることを目的とした。p53欠失ヒト癌細胞株であるSaos-2およびH1299に、これらの変異体をコードする遺伝子をアデノウィルスによって導入し、(1)p53変異体導入による細胞増殖の変化、および(2)マイクロアレイを用いた遺伝子発現解析を行った。まず、p53変異体が細胞増殖に与える影響をMTTアッセイによって測定した。野生型p53に比べ、変異体では有意に増殖が亢進されていた。このことは、本来は腫瘍形成を抑制するp53が変異によってその能力を喪失していることを示している。そこで、この175(H)および248(W)変異体による遺伝子の発現制御を明らかにするためにマイクロアレイ(GeneChip, Affymetrix社)による遺伝子発現のプロファイリングを行った。野生型p53の導入した細胞に比べ2倍以上発現が亢進または抑制される遺伝子として、452遺伝子(175H変異体)、450遺伝子(248W変異体)が選出された。2種類の変異体で選出された遺伝子群の多くは共通であったことから、これらの遺伝子の中に変異体による「機能獲得」に重要な役割を果たす遺伝子が含まれると考えられる。現在、p53変異体によって誘導される遺伝子の機能の解析を進めている。